いつものように、僕は最後部の座席に身を委ねた。畑の真ん中を突っ切るように走る二両編成のワンマン車両。始発駅を出発した列車の窓の向こうには、ぽつりぽつりと灯りが浮かんでいた。同時に、自分自身の顔がそこにぼんやりと重なった。同じ車両には他の乗客の姿はなかった。列車は夜の闇の中を、心地良いモーター音を響かせながら、軽快に走り抜けていた。
しばらくすると、列車は最初の駅に停車した。同じ車両に乗り込んで来たのは、会社員風の中年の男だった。扉が閉まり、列車が動き出すや否や、斜め向かいに座ったその男は、携帯の画面を食い入るように眺めながら、袋の中から何やら取り出すと、大口を開けてそれらを無邪気にほおばり始めた。
漂う独特の臭い。
にやついた表情。
男は自分だけの世界に没頭していた。僕は思わず視線を逸らした。
そして、窓の向こうに映るいつもの光景をぼんやりと見つめていた。
童心と無邪気さ。
回帰する馬鹿者。
それはもはや大人ではなく、玩具と菓子を手中に収めた子供の姿そのものだと思った。腹が減れば、所構わず貪り食う。羞恥と配慮など、微塵も見当たらない。画面への強い執着により、思索と思慮は頭脳から消え去ってしまう。これが現実なのだ。列車は停車と発車を交互に繰り返しながら進んだ。
突然、ドスンという音がした。見ると、あの男が床にうつ伏して倒れていた。微かな呻き声を上げ、手足を細かく痙攣させながら、今度は仰向けに転がった。目は大きく見開き、口からは吐瀉物が溢れ出ていた。何といえない強い臭気が、瞬く間に拡がった。僕は立ち上がった。携帯とコンビニの袋が、残骸のように床の上に転がっていた。僕は先頭の車両に移った。
僕は車両越しに、男の姿を凝視した。男は仰向けで転がったまま、完全に動きを止めていた。死んだのかもしれない。僕はそう思った。
移った車両には、疎らに乗客がいた。そしてここでもまた、例の童心が渦を巻きながら、車内の一部をしっかりと占有していた。