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コラムⅡ
心に吹く隙間風
目次
心に吹く隙間風Ⅱその26
たった一度だけ、僕は辻政信のことを小説の中で書いたことがある。それも一行のみだ。
『戦後を辿る旅』甲山羊二著 まきば出版
こちらを是非とも読んでもらいたい。
さて、辻政信といえば、やはり『潜行三千里』である。ただし、著者の個人的批評については、あえてここでは避けておくことにする。焦点を三千里の潜行に絞ることにする。
『潜行三千里』には、戦後のアジアの状況が実に克明に記されている。何より興味深いのは、人間そのものへの鋭い洞察だ。それは決して甘いものなどではない。人間に対しては、先ず何よりも徹底的に疑うことから始める。中途半端に信用などしない。人間は必ず裏切る。その信念がぶれるとどうなるか。当然死が訪れる。だから死なない為には疑うより他はない。逆説的には、生きる為に疑う。これは一見厳しいようだが、実は正論である。
現代日本に欠如しているのは、この疑うという所作である。特に外交については余りにも特化しすぎている。右手で握手をする。左手では拳を握る。これは外交だけではない。普段の人間関係でも全てが全てそういう狡猾さでもって成立するはずだ。少なくとも僕はそれを実践する。狡猾さは我が身を救う。
狡猾三千里で辻政信は生き抜けた。これは馬鹿ではできない。とはいっても、悧巧をひけらかす必要もない。馬鹿の真似をする。建前を先行させ、本音は隠す。これで良いのだ。
甲山羊二
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