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コラムⅡ
心に吹く隙間風
目次
心に吹く隙間風Ⅱその19
日大のアメフト部の対応がやり玉に挙げられた。関学選手への反則タックルがそもそもの発端だ。タックルされた選手の親が登場してから、この案件はまさに劇場型へと変わった。さらに反則した選手が弁護士を伴って記者会見したところから、今度は日本人お得意の袋叩きが始まったという訳だ。日大監督やコーチ、学長に理事長、特に監督個人への集団リンチは凄惨を極めることとなった。一方で、会見を行った選手は同情を集め、それを勇気とまで高く評価された。なるほど、安っぽいヒーローはこうして生まれるのだろう。
まともな人間は彼をヒーローとは捉えない。彼はヒーローでも何でもない。勇気の欠片すらない。なぜか。彼に真の勇気があったなら、反則タックルの指示に対して毅然と拒否したはずだ。しかし実際は指示に従った。そして彼は反則を実行した。彼はOBを含めた部員たちと同様に、日大アメフト部という看板で生きていくつもりでいたのだ。疎に看板を上手く利用して生きるつもりでいたのだ。ところが当ては外れた。日大をそしてアメフト部を、ここは敵に回した方がいい。世間の空気に同調し、自らをヒーローに仕立て上げ、逆にその同情を看板とした方がいい。そうして彼は会見に臨んだに違いない。狡猾と二枚舌。それが証拠に、彼は未だ日大の学生であって、アメフト部の部員ではないのか。これこそ、社会で通用する知恵だとするならば、彼は既に立派過ぎる程の社会人であり、最強のビジネスマンだということになるのではないか。
監督やコーチは悪玉にされ、会見に臨んだ彼は見事に善玉になった。悪玉によって、いとも簡単に善玉が生まれる。とにもかくにも、彼は善玉の座に座った。そうして世間もそしてチームメイトまでが、いとも簡単に彼になびいていった。何と単純明快なことだろう。
そもそも大学に対する入学の目的も不純だ。学問の為か、スポーツの為か、文武両道だとはまさに詭弁以外の何ものでもない。そうした構造にもどれだけの日本人が気付いているのか。おそらくはほとんど分かってなどいない。スマホでゲームではまともな脳は育たない。その意味でも、彼は愚なる世間より、善玉として随分と上にいるのかもしれない。
甲山羊二
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