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コラムⅡ
心に吹く隙間風
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心に吹く隙間風Ⅱその3

 久々に「タイム・マシン」を読んだ。ウェルズの作品は「透明人間」も傑作のひとつであるが、僕にとってのお気に入りは、やはり何といっても「タイム・マシン」である。「いいね!」を何十万回押してもまだ押し足りない。それくらいの価値があると僕は考えている。
 この作品の素晴らしいところは、読者を上手に裏切りながらも、決して失望させることのない構図と筆致であろう。ほとんど誰もが思い描く未来へのあくなき希望と情熱、そしてそこに渦巻く混沌とした欲望を見事に表現している。これはやはり名作である。そしてまたなかなかのジェラシーでもある。
 ただ、個人的にと前置きをしておいて、少なくとも現時点で、僕は自分の未来を知りたいなどとは決して思わない。そしてそれは何も自分についてだけではない。日本という国についても、いや世界についても、さらには地球についても同じである。もちろん、進歩と躍進と進化によってもたらされるであろう未来が、笑顔で僕たちを迎えてくれるという可能性を全て否定するわけではない。それでも僕は未完成で発展途上な現在を見ているほうがいい。脆弱ななかにだって幸せは十分にある。真の幸せは未来にだけあるなどと思うのは、やはり幻想なのだと僕は考えてしまう。それはいけないことなのだろうか。
 だから、過去という時制に戻ろうなどとも思わない。僕にとって過去は十分体験済みだからである。
 僕は現在という時制のなかでしっかりあがいて、本気で生きてみたいと思っている。それは僕にとって決していけないことではない。そこは譲れない。

甲山羊二
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