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コラム
心に吹く隙間風
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心に吹く隙間風その48

 昨今、目だって敵わないのが、町中を食べながら闊歩する老若男女である。これは何も若者に限った話ではない。食べる時間を惜しんでまでして、何かに没頭しているとも思えない。簡単にいえば、ただ行儀が悪い。親の顔どころか、同居人の顔まで見たいと思わせる。もちろん本音は見たくも何ともないのだが。
 食は生活の基本である。何やら年寄りの小言のように聞こえるかもしれないが、事実、実際に食から数多くのことを学ぶことができる。
 まず季節である。季節は目で見て、肌で感じて、そして舌で味わう。これらはまさしく三位一体である。たとえ目で見ることができなくても、触れることによる微妙な感覚というものがあるはずである。最近では、マナーの悪さも手伝って、「花よりだんご」ではなく、「花よりポイ捨て」が横行しているという。そんな連中との絆などまっぴら御免である。
 次に感謝である。これは作り手に対するといった、そんな狭い了見のものではない。もちろんそれも含む。大切なのは、食べられる環境そのものへの感謝である。自然はもちろん、「働かざるもの食うべからず」が意味するところの、生活そのものに対する感謝である。
 最後に、時間である。季節を味わうも、感謝するも、それを与えてくれるのは時間である。言い換えれば、心の余裕である。その余裕を作ることさえ煩わしいと思う人間に、何が創造できるというのか。食の行き着くところは、創造力のある人間ということになる。
 食べながら闊歩する人間に問いたい。あなたたちにとって食とは、食うことで正しく糞をすることだけなのかと。実に嘆かわしい。
甲山羊二
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