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エッセイ
ああ言えばこう言え!
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 ああ言えばこう言え!その9

 占いブームだという。
占いには多少なりとも興味はあるものの、私はポジティブな占いしか信用しない。
ネガティブな占いは、心と体には毒である。
実のところ、私の興味は占いそのものよりも占う側の人、つまり専ら占い師の方に向けられているのである。
なぜなら、私はこれまで数多くの占い師を騙し、一方で占い師の側もこんな私にこれまたコロッと騙されてしまうという、輝かしい実績をもっているからなのである。
ある時は売れない漫才師に落語家、またある時は倒産寸前の会社社長、そしてまたある時は若い男に女房を取られた悲しく切ない男等など、よくまぁこんな猿芝居を抜けぬけと出来るものだと自ら感心しながら、私は全くもって数多くの占い師を騙し続けてきたのである。
もちろん正体を見破られたことなど一度もない。

ある占い師などは、幼い頃に親の都合で離れ離れになった弟がいて、結局最近になってその弟が死んだという知らせを風の便りに聞いたという私のショートストーリーを涙しながら聞き入り、挙句の果てに素晴らしい霊媒師まで紹介する始末である。
そして後日、その霊媒師に本当に弟の霊が乗り移ったものだから、私は腰が抜けるくらい驚いてしまった。
私には妹はいても弟などはいない。
いやいないはずなので、取り急ぎ確認の為に両親に問い合わせてみたところ、「いないに決まっているではないか!」と激怒され、一方的に電話を切られてしまった。
よって、私に弟などいないということが証明されたのである。
結局は占いなど人間がこしらえたつまらないシステムなのだ。
そう言えば、霊媒師に乗り移った弟の霊は、霊媒師と同じく、最初九州訛りだった気がする。
「別れたのは何時だったろうか?」と問いかけると、「幼い時じゃ」と答えていた。
「3歳ごろだったかなぁ」と言うと、今度はいきなり東北訛りで「んだ、んだ」と答えていた。
見事なバイリンガルだった。

甲山羊二
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